東北の伝統こけし


 

津軽系、南部系、木地山系、鳴子系、遠刈田系、弥治郎系、

肘折系、山形系、蔵王高湯系、土湯系、土湯系(中ノ沢)

第42回「全国こけしコンクール (平成12年5月4日)」模様⇒こちら

系  統

特          徴

津軽系

青森県黒石温泉、温湯温泉(弘前市)


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木地は「つくりつけ式」(頭と胴の一本の木)で胴が括れています。胴模様に 「ねぶた」の「から草模様」(だるま、牡丹など)があります。頭は「おかっぱ」で黒く塗っています。個人的にはアイヌあるいはロシアの雰囲気があるように思われます。温湯温泉・大鰐温泉が こけし工人が集まっているとのことです。

写真の左のコケシは「阿保金光氏」(青森県黒石市)作。鳴子の「全国こけしまつり」で購入しました。素朴でかわいらしい顔をしています。阿保さんのこけしは青森駅前のみやげ物屋さんでも入手することができます。

温湯温泉こけし工人のページは⇒こちら

津軽こけし館のページは⇒こちら

右のコケシは「笹森淳一氏」(青森県弘前市)作。笹森さんの作品は入手するチャンスを何度か逸したため、雪の残る弘前市郊外の笹森さんのご自宅まで伺って購入しました。笹森さんは作られている「こけし」同様非常に落ち着いていて静かなタイプな方でした。笹森さん のこけしは非常に繊細で細部の仕上げが素晴らしいです。きりりとした顔立ちは「阿保さん」のこけしとは好対照です。また緻密な「だるま絵」も特徴のひとつです。

南部系

岩手県盛岡市・花巻市


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伝統的な南部系は彩色がなされていないもので、古くは「おしゃぶり」(キナキナ)にしたとのこと。頭はゆるいはめ込み式でくるくる回り、肩が丸く、胴が括れています。明治の末ごろから鳴子・遠刈田の影響で彩色を施すものが作られるようになったそうです。

左のこけしは「佐藤一夫」氏(岩手県花巻市)作。鳴子の「全国こけしまつり」で購入 しました。


右は「佐々木
覚平」氏(岩手県 北上市郡)作。白石の全日本こけしコンクール会場にて御本人から購入。佐々木さんが受け継いでいるこけしの型の中でもっとも基本的な型だそうです。シンプルですが味わい深い作品です。佐々木さんの雰囲気にそっくりなコケシです。

木地山系

秋田県雄勝郡

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古い時代に鳴子系から分化したといわれていて昔は 「はめ込み式」の形態もあったそうですが、今は頭と胴は一本の木で作られています(つくり付け方式)。胴が太く、頭はらっきょ型。「前垂模様」が特徴のひとつで他の系統に比べて写実的です。

このこけしは「小椋久太郎」氏作(雄勝郡皆瀬村木地山在住、氏92歳の作)。素朴な味わいを通り越しています。パンフレットによると小椋久太郎さん(1906年生まれ)は木地山に住んで4代目になるそうです。

鳴子系

宮城県鳴子温泉
 

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頭がはめ込み式で、頭を回すとキュキュ鳴るところが特徴です。肩と裾が張っており、胴は太めで安定感があり、模様は、菊、あやめ、牡丹などです。

鳴子温泉
(公式ホームページはこちら)は近代的なホテルが立ち並ぶ温泉街です。また町のいたるところに「こけし屋」さんがあり土産物選びに困る程です。温泉街の中心に風情豊かな「滝の湯」という共同浴場があります。共同浴場近くに駐車場があまりないので車で行くと大変苦労します。鳴子温泉郊外に「日本こけし館(公式ホームページはこちら)があり、鳴子こけしをはじめとして全国のこけしのコレクションが展示されています。


左の小さなコケシは、「大沼秀雄」氏(鳴子町)作。これは20年ほど前に仙台に旅行した際に「みやげ物屋(しまぬき)」で購入したのですが、頭を回しすぎで壊してしまいました。そこで仙台に転勤したのを幸いに、思いきって鳴子の「大沼」氏を訪ね修復をお願いしたところ、快く直して頂いたものです。こけしの「顔」は作者に似ているといわれていますが、その説のとおり 大沼さんは製作されるこけしそっくりの柔和な方でした。

右は「柿沢是隆」氏(鳴子町)作。白石の「こけしコンクール会場」にてご本人から購入。きっちり描かれていて格調高い立派なこけしだと思います。大沼さんの柔らかい雰囲気とは対照的です。

遠刈田系

宮城県遠刈田温泉

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胴は細身、頭は胴に比べて大きい。頭部の彩色は放射線状の菊花模様が特徴とのこと。胴模様は菊・桜・梅等です。頭は差込式で回りません。

遠刈田温泉は宮城蔵王にあります。仙台市から国道286号を30Kmくらい南下すると蔵王の宮城県側の山麓に着きます。この遠刈田温泉は蔵王の登り口になります。ここからさらに登ると「青根温泉」「蛾々温泉」など更に鄙びた温泉があります。温泉街の中心に大きな共同浴場があり、仙台からドライブで丁度良い距離なので休日は大変込みます。蔵王の山の上の温泉は非常に酸性がつよいのに遠刈田の温泉は非常にまろやかなので、宮城蔵王のスキー場で滑ったあと遠刈田温泉の共同浴場(福祉センター)に入ってくると スキーの疲れがとれます。温泉街から少し離れたところに「宮城蔵王こけし館」(
蔵王町公式ホームページはこちら)があり、遠刈田こけしを中心の多くのこけしを展示しています。


左の二つは「高橋広平」氏(刈田郡蔵王町遠刈田)の作品。素朴でバランスが良く上品で洒落た作品です。小さい方は蔵王こけし館で購入し、大きな方は高橋さんの自宅兼工房に伺って購入しました。ご自宅は遠刈田の共同浴場の近くで宮城蔵王のスキー帰りに立ち寄ることができました。高橋さんはお父さんから作風を受け継いでいるとのことでパンフレットによると4代前まで遡って経歴が書かれています。非常にバランスがよく知的な感じのコケシです。

右は「佐藤一夫」氏の作品。やさしい顔をしたこけしです。奥様もこけし作家でいらっしゃいます。遠刈田の公衆浴場から少しはなれた「新地」というところにお住まいで、そこはこけし作家が10軒以上集中しており全国的に有名なところです。そこの作家の方はほとんどが「佐藤」姓です。東北には「佐藤」姓が多いのですがここは特別集中しています。パンフレットによると「佐藤一夫」さんは「吉郎平系」の10代目の作家だそうです。

弥治郎系

宮城県白石・鎌崎温泉

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頭は円く、胴が太い。胴の彩色は黄色をベースにロクロ模様を施し、襟と裾を簡単に手書きしているところが特徴です。頭は差し込み式(まわらない)が多いそうです。

弥治郎こけしの里 の「鎌崎温泉」は遠刈田の10Km位南の蔵王山麓(白石市)にあります。車では東北道白石ICからが便利です。旅館数件のこじんまりした情緒豊かな温泉です。白石は仙台伊達藩の有力家老「片倉小十郎」が治めた城下町で、街 の中心に城がありその周囲には堀の跡を残しています。非常に風情があります。「鎌先温泉」近くに「弥治郎こけし村」があります。

左は「新山吉紀」氏(白石市弥次郎北)作。「弥治郎こけし村」で購入。「こけし村」では弥次郎系の若手作家が工房を開いています。新山吉紀のこけしはバランスの良いこけし なので将来が楽しみな作家だと思いました。

真ん中は「佐藤辰夫」氏作。こけし館への途中の佐藤氏の工房で購入。上品でキリリとしており、いかにも熟練した作家の作品という感じです。

左は「新山左京」氏作。佐藤氏の向かいにある新山氏の工房で購入。 非常に端正なコケシです。新山左京さんの人柄どおりの落ち着いたやさしいこけしです。新山左京さんからはずいぶんたくさんのコケシを買わせていただきました。

肘折系

山形県肘折温泉

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肘折系は鳴子と遠刈田の混合だそうです。胴は黄色の塗りこみがあります。

肘折温泉」(
大蔵村ホームページはこちら)は大変鄙びたところにあります。仙台市からは東北道・山形自動車道で山形市に入り、そこから国道13号線を天童、東根、村山、尾花沢、新庄と北上し、今度は国道458線を20Km位南下したところにあります。昔ながらの湯治場の雰囲気を色濃く残した温泉で、土産店の他に湯治客向けの食料品販売店も目に付きます。


この作品は「鈴木征一」氏(山形県最上郡肘折温泉)作。バランスが良く堂々とした作品です。頭に空洞を作り「小豆」を入れてあり、振るとカラカラと音がします。

肘折温泉の征一氏のお父さんの経営するみやげ物屋で購入しました。お父さん(慶次郎氏)はこけしの収集家でこけしの話を聞いてきました。

山形系

山形市

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形は古くは「細胴」であったそうですが、今はさまざまな形があるようです。描彩は県花の紅花、牡丹.菊などです。

左は「高崎栄一郎」氏(米沢市)作。山形駅のみやげ物店にて購入。かわいらしいこけしです。


右二つは「小林清次郎」氏(山形市)作。小林氏の工房に伺い購入。真中のものは「はるばるよく 来たね」と奥様から頂いたものです。大胆で温かみのあル作品です。

蔵王高湯系

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蔵王高湯系は遠刈田と土湯の変化で、胴は丸みを持った肩張で裾絞りとなっています。

蔵王温泉は蔵王の山形県側の山麓にあり蔵王スキー場の基地となっています。すこし登ったところに大露天風呂があり 、多くの観光客で賑わっています。ここの温泉は非常に強い酸性なので石鹸・シャンプーが役立ちません。スキーの後は温まるだけで十分ですが。

この作品は「岡崎幾雄」氏(山形市蔵王温泉)作。岡崎氏の工房兼店舗(能登屋)で購入。ご本人に底にサインを頂きました。端正で華やかな雰囲気をもつこけしです。また描彩は非常にデリケートです。パンフレットによると「岡崎」さんは蔵王系こけし創始者の岡崎栄治郎氏の曾孫にあたり伝統的な蔵王こけしの型を継承していらっしゃるそうです。なお、岡崎さんは今年(平成13年)の全日本こけしコンクールで二回目の総理大臣賞を受賞されています。

土湯系

福島県土湯温泉

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胴の上部下部がやや細身で真中がふくらんでいます。彩色はロクロ模様が主です。

土湯温泉は福島県の磐梯高原にあります。車で行くと福島西ICで下りて、福島市とは反対の方向につまり磐梯高原の方へ国道115号線を上っていくと 約10Km位で「土湯温泉」(
土湯温泉ホームページはこちら)に着きます。近代的な温泉が立ち並ぶ観光地となっています。磐梯山は1888年の水蒸気爆発で山の姿を大きく変えるとともに 、山麓の村に大きな被害をもたらしました。一方その火山活動は磐梯高原のいたるところに豊かな温泉を供給しています。


この作品は「斎藤弘道」氏(福島市土湯温泉)作。土湯温泉のみやげ物屋で購入。安定感があり、素朴でやさしそうな顔が特徴で娘のお気に入りです。

土湯系(中ノ沢)

福島県猪苗代町中ノ沢

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大きな目と大きな鼻で、目の周りの赤い彩色がより一層のユーモラスさを添えています。大正はじめに「岩本善吉」という人が中ノ沢温泉に住み着き生み出したものだそうです。 「たこ坊主、青坊主」と呼ばれる二種類があるそうです。

中ノ沢温泉は土湯温泉から国道115号線を更に10Km程猪苗代湖方面に南下したところにあります。緩やかな沼尻高原の裾野で、ほのぼのとした雰囲気があります。

左は「斎藤徳寿」氏(会津若松氏)作。中ノ沢のみやげ物屋にて購入。「青坊主」と呼ばれる種類で役者絵のような顔と胴のろくろ模様が特徴です。


右は「本多洋」氏(猪苗代町)作。中ノ沢温泉に近い御自宅兼工房にお邪魔して購入。「たこ坊主」と呼ばれる種類で、ほのぼのとした顔と胴の牡丹模様が特徴です。


これらの「こけし」は宮城県仙台市に住んでいた時期(平成7・8年)に、土曜・日曜・休暇を利用して東北地方の有名な温泉 を訪れて集めました。 東北地方の福島、宮城、山形、秋田、岩手、青森の6県は各々が温泉地を抱えています。冬がとても厳しいのですが、豊かな温泉の暖かさはそれを補って余りあります。温泉地はそれぞれ特色を持っています。「温泉の質の違い」、「観光地に近く近代的なホテルがあるところと鄙びたところ」といった違いがあり、温泉を 巡る楽しみになっています。

それに加えて、東北の温泉地にはその土地独特の「こけし」文化があります。こけしは木地師が作っていた子供の玩具が「温泉土産」として売られてきたものですが、今では重要な伝統産業となっています。東北の温泉地はそれぞれの温泉とその土地の「こけし」がセットになった楽しみをもっているのです。

伝統こけし」とは、こけしの材料、形、描彩の特徴が親から子へ、師から弟子へと系統的に引き継がれているものをいいます。現在では概ね以下の10系統に分類されていて、その職人の数は約400名いらしゃるそうです。 色々な職人さんのコケシを眺めてみると、職人さんの個性がコケシに表れていて興味深いものがあります。特にコケシ製作者の方の自宅に伺ってお話を聞くチャンスがあると、買ったコケシへの思い入れはさらに深くなります。

この伝統産業として「こけし製作」を奨励すること等を目的にして、「こけし製作者」の祭典が東北地方で開催されていますが、その主要なものは宮城県鳴子町で開催される「全国こけしまつり」と宮城県白石市で開催される「全日本こけしコンクール」です。

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