海外でもアマチュアオーケストラ振興活動をされている指揮者の「山路譲さん」
フルーティストの「坂橋矢波」さんがムンバイ室内管弦楽団オーケストラ
(BCO)と共演されました。山路さんはWFAO委員、JAO国際交流委員会特別委員(東アジア担当)
をされていて、南アジアのオーケストラとの交流に非常に強い関心をお持ちにな
られていました。山路さんが2007年の秋の今回のBCOの演奏会に合わせて訪印されて演奏会をお聞きになり交流の端緒を開かれ、それから1年間の準備活動を経て2008年11月の
BCOの演奏会で「坂橋矢波」さんと共に共演が実現したのでした。
中国・韓国とか東南アジアではプロ・アマ問わずにオーケストラ活動が活発になっていますが、南アジアのオーケストラ活動に関する情報は日本には殆ど入ってこないのが実情で
した。実際、インド・パキスタン・スリランカ・バングラデシュ・ネパールなどの南アジア諸国はまだ貧しいことに加え、文化も違い日本から遠いこともあって
なかなか文化交流が進んでいくという訳にはいきません。クラシック音楽を聞く聴衆の数も少なく物価水準も低いので、日本のプロオーケストラが
南アジアに演奏旅行に行くことはまだとても考えられません
。今回の「山路さん」のような活動が端緒となって交流が拡大していくことを期待されます。
私はムンバイ駐在中にBCOに参加していた時、BCO代表の「ジニー・ディンシャウ先生」を始めとしてオーケストラ運営をされている方々の日本に対する期待
が非常に大きいということを知りました。インドの人々にとっては嘗ての宗主国のイギリスとの関係が今でも非常に強
く、英語が普通に通用することから音楽を目指す若者は基本的にイギリスを目指します。イギリス政府も「コモン・ウェルス諸国」には特別の支援を惜しみません。一方で
、同じアジアの日本とは経済的な繋がりは日に日に大きくなって来ているのも事実でした。
ジニー先生は「YAMAHA」の楽器を高く評価していました。というのも弦楽器にしろ管楽器・打楽器にしても、本場ヨーロッパの楽器で一定以上の品質の楽器は非常に高価でインドで揃えることはほぼ不可能であることに対し、「YAMAHA」を始め日本の楽器は値段の割りに品質が高くコストパフォーマンスが優れているからです。また日本が西洋音楽を驚くほど早く取り入れ、慣れ親しんでいる方法論(例えばスズキメソードだとかブラスバンド活動)など日本式の西洋音楽導入手法にも興味をお持ちでした。
一方、インドと日本と文化的交流においては「言葉の壁」が高いのも事実です。
というのもインドの多くの人々が英語を流暢に話しますが日本人音楽家で英語で指導できるレベルの人は一握りに限られます。正直言うと発展途上国に協力
活動を進める上で、自分達より英語の上手い人々と付き合うのは非常に難しいものがあると思います。私がBCOといっしょに活動している間も夏休みにイギリスから音楽大学の学生が定期的にやって来てBCOのメンバーとコンサートをしたり、ヨーロッパの国々の支援でコンサートが開かれていたりしていました。
やってくる学生の方にも貴重な経験になるし、ムンバイの音楽を目指す若者にとっては非常に貴重な経験となるのです。
日本にも音楽を専攻する学生が沢山いるのですから、何かしらの交流の機会が作り出されることを期待してやみません。
この場合は当然ですが最低限の音楽に関する「初歩的な英語のよるコミュニケーション能力と途上国での生活能力」が必要になります
。そして何より「共に音楽を楽しもう」という姿勢が大切だと思います。
私はオーケストラなどの西洋文化によるアジア人同士の交流は非常に重要なことだと思いますが、一方で
相手に立場を考えての配慮が非常に大切になると思っています。というのもアジア民族にすれば「西洋音楽」は共通して輸入文化であり、日本ではクラシック音楽文化が隆盛しているとは言え、所詮は
「少し早く輸入した」に過ぎないのですから、交流する際には互いにとって「輸入文化」だという前提で謙虚に交流することが大事なことだと思います。
今回山路さんがBCOコンサートの指揮台に立たれ
るに際して、BCOの演奏会史上初めてとなる日本メロディーがたっぷり含まれている外山雄三作曲の「管弦楽のためのラプソディー」が演奏されたのでした
。まったく知らない日本メロディーたっぷりの曲を仕上げることは非常に大変なことだったと思います。またBCOの楽器編成ですが、管楽器
種で西洋古典音楽に出てくる楽器程度しか揃っていませんし、打楽器に至っては日本和楽器を奏者付きで探すことは不可能に近いことでした。今回の「管弦楽のためのラプソディー」
ではムンバイ日本人学校の「和大鼓」が活躍した
とのことでした。
今回BCOコンサートの数日前にムンバイ日本人学校での坂橋矢波氏(東フィル首席フルーティスト)がミニ・コンサートを開催され、聞きに来ていたお母さん方がすっかり
「坂橋ファン」になってしまったそうです。そんな関係もあって「弦楽のためのラプソディー」では打楽器のエキストラとして、日本人学校のお母さん3人とアメリカンスクールに通っている日本人生徒(
皆さん日本でブラス、オケ経験者)が参加されたということです。この曲では日本の打楽器が沢山登場し、そのリズムは独特のものがあります。拍子木の演奏はBCOの世話役も勤める
打楽器奏者「ビルモリアさん」が担当されたそうです。日本のリズムが難しく日本の感じを出すため「坂橋さん」が特別トレーニングを
されたということです。このような活動からムンバイで日本人とBCOの繋がりが深まっていくことはとても良いことだと思います。
加えて嬉しいことに、今回のBCOの演奏会にはスリランカからチェロの「デュッシー先生」の弟子タマーラさん等4人が参加しました。こういう形でスリランカとインドの交流が進んでいることを知って大変嬉しく思っています。「ドュッシー」先生は素晴らしい先生なのでインドでも
ぜひチェロ教育活動をして欲しいと思います。今回BCOのジニー先生は日本人演奏家のエキストラ参加を期待していたようですが集まらなかったようです。次
にチャンスがあったら日本の音楽大学生は是非挑戦してみて欲しいと思います。
演奏会が11月23日(日曜日)だったのですが、その翌週の27日木曜日に「ムンバイテロ」事件が発生したのでした。BCOの演奏会が開催されたTATAシアターのすぐ近くに「トリデントホテル」があり
、そこで日本人ビジネスマンがテロに巻き込まれて亡くなりました。この事件を契機にムンバイは非常に危険な街と見なされるようになり観光客の数も減ってしまったようです。BCOの海外との交流活動も何らかの影響を受けることは避けられないでしょう。今回のテロ事件を早
く乗り越えて再び多くの海外の人々が交流するムンバイが戻って来て欲しいと思っていますし、BCOの音楽活動においても世界各国、特に日本との交流がますます拡大していくことを願っています。以下
2008年11月23日のBCOの演奏会の演奏会の曲目と演奏会の写真(山路さんから頂きました)
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